Echeveria badiae Jimeno-Sevilla & Posadas-Trejo

基本情報
- 科
- Crassulaceae
- 属
- Echeveria
- 学名
- Echeveria badiae Jimeno-Sevilla & Posadas-Trejo
- 命名者・著者引用
- Jimeno-Sevilla & Posadas-Trejo
- 記載年
- 2025
分布
- 原産国
- Mexico
- 州・地域
- Puebla
- 具体的産地
- Ixtacamaxtitlán–Texocuixpan
自生地に関する記録
本文/補足・記録
日本では「カマノイ」という名前で知られてきたエケベリアがあります。
この植物を調べると、少し意外なことが分かります。
「カマノイ」という正式な学名が、後になって「バディアエ」へ変更されたわけではありません。
植物は以前から知られ、研究にも使われていました。
しかし、そのとき使われていた Echeveria caamanoi という名前は、正式に記載された学名ではありませんでした。
そして2025年。
Puebla(プエブラ)州Ixtacamaxtitlánの植物が、新種 Echeveria badiae として正式に記載されました。
バディアエは2025年に記載された原種
現在の正式な学名は、
Echeveria badiae Jimeno-Sevilla & Posadas-Trejo
です。
H. David Jimeno-SevillaとKarla G. Posadas-Trejoによって、2025年1月31日発行の『Boletín Nakari』36巻に新種として発表されました。
現在のキュー王立植物園のPlants of the World Online(POWO)でも、Echeveria badiae はaccepted species、つまり独立した種として認められています。
自然分布はMexico(メキシコ)のPuebla(プエブラ)州です。
小型で茎がほとんど目立たないロゼットを作り、ロゼットの直径は約2~7cm。
葉は14~25枚ほどで、灰緑色を基本に縁が赤紫色を帯びます。
花序はロゼットよりかなり長く、花は赤みを帯びたピンクからオレンジ色です。
2025年の記載では Echeveria cuspidata に近い特徴を持つ植物として比較されましたが、ロゼットの大きさ、葉の形、花柄、萼片、蜜腺などの違いから新種として記載されました。
名前はアルベルト・バディアに由来する
種小名の「badiae」は、この植物の色を表した言葉ではありません。
アルベルト・バディア・パスクアル(Alberto Badía Pascual)に献名された名前です。
2025年の原記載では、バディアは1946年にスペインのCatalonia(カタルーニャ)で生まれ、ベンケイソウ科植物を研究してきた人物として紹介されています。
つまり「badiae」という名前は、この植物の特徴ではなく、人の名前に由来しています。
日本では「カマノイ」という名前でも知られてきた
ここで、日本の園芸で知られてきた「カマノイ」という名前が登場します。
海外でも、この植物に関係する名前として、
Echeveria caamanoi
が使われてきました。
また、正式な種名がない植物という意味で、
Echeveria sp. ‘Puebla’
Echeveria sp. nov. ‘Puebla’
などと呼ばれることもありました。
重要なのは、Echeveria caamanoi が正式に記載された学名だったわけではないことです。
正式記載される前の植物に対して使われていた暫定的な名称が、研究や園芸流通にも広がっていたと考えるのが適切です。
そのため「カマノイからバディアエへ学名が変更された」と説明すると、植物学的には少し違います。
「caamanoi」という名前で研究にも使われていた
Echeveria caamanoi は正式な学名ではありませんでしたが、園芸の世界だけで使われていた名前でもありません。
2021年に発表されたエケベリア属の染色体研究では、
Echeveria caamanoi
という名前の植物が実際に研究対象になっています。
その植物の記録は、
アクセッション:JE-8311
採集地:Ixtacamaxtitlán, Puebla
IxtacamaxtitlánからTexocuixpanへ向かう道
標高:2,347m
です。
染色体数は、
2n = 60
と報告され、5倍体として解析されました。
つまり「caamanoi」という名前は正式な学名にはならなかったものの、その名前で呼ばれていたPueblaの植物自体は実在し、研究材料にもなっていました。
バディアエの標本とほぼ同じ場所だった
ここで、2025年に正式記載された Echeveria badiae の記録と比べると、非常に興味深いことが分かります。
2021年に Echeveria caamanoi として研究されたJE-8311の採集地点は、
19°36′52.5″N
97°48′47.7″W
標高2,347m
でした。
一方、2025年の Echeveria badiae の正式記載には、タイプとは別に追加標本として、
D. Jimeno Sevillaほか 1290
が掲載されています。
その採集地点は、
IxtacamaxtitlánからTexocuixpanへ向かう道
19°36′52.5″N
97°48′48.5″W
標高2,348m
です。
緯度は同じで、経度の差もごくわずか。
標高差は1mです。
つまり、以前 Echeveria caamanoi の名前で研究された植物と、後に Echeveria badiae として正式記載された植物には、ほぼ同じ採集地点を示す記録があります。
日本で「カマノイ」として知られてきた植物と、現在の Echeveria badiae を結びつけて考えるうえで、非常に重要な記録です。
ただし「caamanoi」はバディアエの異名ではない
ここは名前を整理するときに重要です。
Echeveria caamanoi と呼ばれていた植物と Echeveria badiae の間には、採集地域だけでなく、ほぼ同じ採集地点まで確認できる強い接点があります。
しかし2025年の Echeveria badiae の正式記載では、Echeveria caamanoi を以前の正式学名や異名として扱っていません。
そもそも Echeveria caamanoi は、正式に発表された学名ではありませんでした。
そのため、
Echeveria caamanoi = Echeveria badiae の旧学名
とは記録しません。
より正確には、
「Echeveria badiae と同じIxtacamaxtitlán–Texocuixpan地域の植物に対して、正式記載以前から使われていた暫定的な名称」
として残します。
植物そのもののつながりと、学名としての扱いは分けて考える必要があります。
「カマノイ プエブラ」のPueblaは残してよい
旧来の「カマノイ プエブラ」という名前については、Pueblaという地域情報を捨てる必要はありません。
Echeveria badiae のタイプ産地そのものがPuebla州Ixtacamaxtitlánにあります。
さらに Echeveria caamanoi として研究されたJE-8311もPuebla州Ixtacamaxtitlánで採集されています。
つまりPueblaは、単に園芸流通で付けられた地域名ではありません。
正式記載された Echeveria badiae と、以前 caamanoi と呼ばれていた研究材料の両方に、直接つながる産地です。
そのため旧「カマノイ プエブラ」の記事に含まれていたPueblaという地域情報は、現在の Echeveria badiae の分布情報としても裏付けることができます。
現在分かっている野生分布はかなり狭い
2025年の原記載では、Echeveria badiae は現在のところタイプ産地だけから知られる植物とされています。
場所はPuebla州北部、IxtacamaxtitlánとTexocuixpanに近い地域です。
標高約2,300~2,470mの、乾燥低木や草地が広がる丘陵に生育します。
原記載では分布域が非常に限られていることから、IUCNの基準を用いた評価でCritically Endangered(CR/深刻な危機)に相当すると暫定評価されています。
ただし、これは論文著者による評価であり、IUCNレッドリストに正式掲載されたことを意味するものではありません。
現在確認されている分布が非常に狭い植物である、という点が重要です。
「カマノイ」という名前も植物の歴史として残す
現在使うべき学名は Echeveria badiae です。
しかし、日本でこの植物を「カマノイ」として知った人にとって、その名前を完全に消してしまうと同じ植物へたどり着きにくくなります。
そこでtanitanien植物図鑑では、記事名と現在の学名には「バディアエ/Echeveria badiae」を使用します。
一方、
カマノイ
Echeveria caamanoi
Echeveria sp. ‘Puebla’
といった名称は、正式記載以前にこの植物を示すため使われてきた名称として本文に残します。
「カマノイという正式な学名がバディアエへ変更された」のではありません。
名前が正式に決まる前から知られていたPueblaの植物があり、その植物が研究にも使われ、「caamanoi」という暫定名でも知られるようになった。
そして2025年、Ixtacamaxtitlánの植物が Echeveria badiae という名前で正式に記載された。
標本と採集地点までたどることで、「カマノイ」と「バディアエ」の間にある植物の歴史が見えてきます。
出典・参考資料
- Jimeno-Sevilla, H.D., Hernández-Campos, J.D., Posadas-Trejo, K.G. & Rosales-Martínez, C.S. (2025). Dos especies nuevas de Echeveria (Crassulaceae) del oriente de México. Boletín Nakari 36(1): 1–11.
- Plants of the World Online (POWO), Royal Botanic Gardens, Kew. Echeveria badiae Jimeno-Sevilla & Posadas-Trejo.
- International Plant Names Index (IPNI). Echeveria badiae Jimeno-Sevilla & Posadas-Trejo.
- Palomino, G. et al. (2021). Chromosome Number, Ploidy Level, and Nuclear DNA Content in 23 Species of Echeveria (Crassulaceae). Genes 12(12): 1950.
- ※2021年の研究では、現在Echeveria badiaeが知られるIxtacamaxtitlán–Texocuixpan地域の植物がEcheveria caamanoiの名称で研究されている。ただし、この名称は正式に発表された学名として確認できないため、本図鑑では異名・旧学名には含めない。