アガボイデス マルチフィダ サンフランシスコ|Echeveria agavoides Multifida San Francisco

Echeveria agavoides Lem.

アガボイデス マルチフィダ サンフランシスコ(Echeveria agavoides var. multifida E.Walther)|tanitanien植物図鑑

基本情報

科
Crassulaceae
属
Echeveria
学名
Echeveria agavoides Lem.
命名者・著者引用
Lem.
記載年
1863

分布

原産国
Mexico
州・地域
San Luis Potosí・Hacienda de San Francisco
具体的産地
Hacienda de San Francisco(流通株との直接的な来歴は未確認)

自生地に関する記録

POWOではEcheveria agavoides var. multifidaの自然分布をSan Luis Potosíとする。ICNにはHacienda de San Franciscoが記録されるが、記載材料の由来はunknown originとされる。

本文/補足・記録

1972年に発表されたvar. multifida

Echeveria agavoides var. multifida E.Waltherは、エドワード・エリック・ウォルターが1972年の著書『Echeveria』で発表した名称です。

記載では、1本の花序柄かじょへいに2~5本の総状花序そうじょうかじょがつくことが特徴として示されています。総状花序とは、1本の軸に複数の花が並んでつく花序のことです。

「multifida」という名称も、このよく枝分かれする花序に由来します。

POWOでは2026年現在、Echeveria agavoides var. multifidaをEcheveria agavoidesの変種として認めています。

World Flora Online(WFO)でも、Echeveria agavoidesに含まれる変種として収録されています。

ただし、この名称の扱いには別の見解があります。

var. multifidaには命名上の問題が指摘されている

International Crassulaceae Networkでは、Echeveria agavoides var. multifidaについて、POWOやWFOとは異なる整理がされています。

ICNでは、この名称を命名上無効とする見解を示しています。

また、タイプとしてカリフォルニア科学アカデミー(California Academy of Sciences)のCAS 413922を挙げています。ここでいうタイプとは、その学名を適用する基準となる標本です。ただし、記載に使われた植物の由来は「unknown origin(由来不明)」とされています。

そのため、CAS 413922をアシエンダ・デ・サンフランシスコから採集された野生標本とすることはできません。

POWOとWFOがvar. multifidaを現在も認めている一方、ICNではその命名と由来に問題が指摘されています。

このため、tanitanien植物図鑑ではvar. multifidaを異論のない野生変種として単純に扱わず、両方の見解を併記します。

サンフランシスコとの関係

POWOでは、Echeveria agavoides var. multifidaの自然分布をメキシコのサン・ルイス・ポトシ州としています。

さらにICNには、分布地としてアシエンダ・デ・サンフランシスコ(Hacienda de San Francisco)が記載されています。

そのため、multifidaとサンフランシスコという地域名の関係は、園芸流通だけに見られるものではありません。

一方で、ICN自身が記載に使われた植物の由来を不明としています。

そのため、ICNにアシエンダ・デ・サンフランシスコが分布地として記載されていることだけを根拠に、var. multifidaのタイプがこの地域で採集されたとすることはできません。

また、現在「Multifida San Francisco」の名称で流通している植物についても、アシエンダ・デ・サンフランシスコの野生個体群から現在の流通株までを直接つなぐ採集記録は確認できていません。

‘Red Edge’との複雑な関係

var. multifidaを理解するうえでは、Echeveria agavoides ‘Red Edge’との関係も確認する必要があります。

‘Red Edge’はC.H.ドッドソン(C.H. Dodson)によって1973年に発表された栽培品種名です。

ICNでは、var. multifidaの命名上の問題を整理する中で‘Red Edge’との関係を取り上げ、Dodsonによる‘Red Edge’を正しい栽培品種名として扱っています。

一方、ICNはvar. multifidaの記載に使われた植物と、‘Red Edge’の記載に使われた植物が同一ではないことにも注意を促しています。

そのため、Echeveria agavoides var. multifidaとEcheveria agavoides ‘Red Edge’を単純に同一視することはできません。

1998年にはマイロン・キムナック(Myron Kimnach)によってEcheveria agavoides ‘Multifida’という名称も発表されましたが、ICNではこの名称についても命名上無効としています。

「Multifida San Francisco」の名前で流通している

現在、「Multifida San Francisco」という名称を伴うEcheveria agavoidesが園芸流通しています。

流通上では「v Multifida, San Francisco」や「cv Multifida San Francisco」といった表記も確認されています。

しかし、この「v」や「cv」という表記だけから、植物分類学上の正式な変種や確立された栽培品種名であると判断することはできません。

また、現在流通している「Multifida San Francisco」が、アシエンダ・デ・サンフランシスコの特定の野生個体群から直接採集・採種されたことを示す資料も確認できていません。

そのため、tanitanien植物図鑑では「Multifida San Francisco」という流通名称を維持しながら、var. multifidaの現在の分類と命名上の問題を分けて扱います。

現在はEcheveriaとして扱う

母種Echeveria agavoidesを含むグループについては、近年DNAを使った分類研究が進んでいます。

2026年の研究では、Echeveria agavoidesを含むUrbiniaのグループが独立したまとまりであることが強く支持されました。

Urbinia agavoides (Lem.) Roseという学名自体は、1903年に発表されています。

2026年の研究では、Urbiniaを独立した属として再認識することが提案されています。ただし、この論文でUrbiniaに含まれる各種について必要な新組合せがすべて正式発表されたわけではありません。

そのため、tanitanien植物図鑑では現時点で属名を先行して変更せず、Echeveriaとして扱います。

また、multifida自体についても、POWO・WFOとICNで扱いが一致していません。

今後の分類・命名上の整理について、引き続き確認が必要な名称です。

異名・旧学名

  • Urbinia agavoides (Lem.) Rose

出典・参考資料

  • Plants of the World Online(Royal Botanic Gardens, Kew). Echeveria agavoides var. multifida E.Walther. First published in Echeveria: 85 (1972). Status: Accepted. Native range: Mexico (San Luis Potosí).
  • World Flora Online. Echeveria agavoides Lem. Echeveria agavoides var. multifida E.WaltherをEcheveria agavoidesに含まれる変種として収録。
  • Walther, E. (1972). Echeveria. Echeveria agavoides var. multifida. pp. 85–87.
  • International Crassulaceae Network. Echeveria agavoides ‘Multifida’. Echeveria agavoides var. multifidaの命名上の問題、CAS 413922、Hacienda de San Franciscoおよび‘Red Edge’との関係を整理。
  • Dodson, C.H. (1973). Echeveria agavoides ‘Red Edge’. Cactus and Succulent Journal (U.S.) 45(2): 92.
  • Kimnach, M. (1998). Echeveria agavoides ‘Multifida’. Cactus and Succulent Journal (Los Angeles) 70(6): 300.
  • Repertorium Plantarum Succulentarum 49. Echeveria agavoides ‘Multifida’の1998年公表記録。
  • Rose, J.N. (1903). Urbinia agavoides (Lem.) Rose. Bulletin of the New York Botanical Garden 3: 12.
  • de la Cruz-López, L.E. & Espinosa, D. (2026). Phylogenetic analysis and the recognition of a new genus for Mexican Crassulaceae segregated from Echeveria. TAXON 75(3): e70153.