Echeveria carnicolor (Baker) É.Morren

基本情報
- 科
- Crassulaceae
- 属
- Echeveria
- 学名
- Echeveria carnicolor (Baker) É.Morren
- 命名者・著者引用
- (Baker) É.Morren
- 記載年
- 1874
分布
- 原産国
- Mexico
- 州・地域
- Veracruz・Puebla
- 具体的産地
- Tenampa(野生研究記録)
自生地に関する記録
本文/補足・記録
「カルニカラー グラウ/グレイ」という名前には、色を表す言葉が並んでいます。
grauはドイツ語で「灰色」。greyは英語で「灰色」。
では、これは「灰色のカルニカラー」として正式に作られた品種なのでしょうか。
調べていくと、そこまで単純ではありません。
基礎となる Echeveria carnicolor は150年以上前から知られる原種です。しかも、その名前そのものが葉の色に由来しています。
カルニカラーは1870年に記載された植物
カルニカラーの植物学上の歴史は、1870年までさかのぼります。
イギリスの植物学者ジョン・ギルバート・ベイカー(John Gilbert Baker)が、Cotyledon carnicolor という名前で記載しました。
掲載されたのは『Refugium Botanicum』第3巻、図版199です。
その4年後の1874年。エドゥアール・モレン(Édouard Morren)がこの植物をEcheveria属へ移し、Echeveria carnicolor (Baker) É.Morren という組み合わせを発表しました。
現在のキュー王立植物園のPlants of the World Online(POWO)でも、この名前がaccepted nameとして採用されています。
つまりカルニカラーは、「grau / grey」という流通名が付くはるか以前から知られている原種です。
「carnicolor」は葉の色から付いた名前
カルニカラーという名前には、この植物の姿を理解する手がかりがあります。
ラテン語の「carnicolor」は、「肉色の」という意味です。
International Crassulaceae Network(ICN)は、この名前が花ではなく、葉の色を指していると説明しています。
実際、1870年のベイカーによる原記載でも、葉の色は単純な緑色とは書かれていません。
淡い白粉を帯びた緑色に、はっきりと赤みが加わる葉として記録されています。
さらに葉の表面には、小さな突起が目立つことも特徴として記載されました。
つまり Echeveria carnicolor は、最初に記載された時点から葉の色と質感が印象的な植物だったのです。
最初からタイプ標本が決められていたわけではない
1870年に Cotyledon carnicolor が記載されたとき、現在この学名の基準として扱われているタイプ標本が指定されていたわけではありません。
そこで現在は、原記載とともに掲載された『Refugium Botanicum』第3巻のplate 199がlectotype(レクトタイプ)として扱われています。
レクトタイプとは、名前が発表されたときに基準となる標本が指定されていなかった場合などに、後から元の資料の中から選ばれる学名の基準です。
カルニカラーの場合は、1870年に植物とともに発表された図版そのものが、その名前を判断する重要な基準として残っています。
現在も野生のカルニカラーが研究されている
Echeveria carnicolor は、古い園芸植物として名前だけが残っているわけではありません。
現在のPOWOでは、Mexico(メキシコ)のVeracruz(ベラクルス)とPuebla(プエブラ)が自然分布域とされています。
さらに2021年の染色体研究では、Veracruz州Tenampa(テナンパ)のBarranca de Tenampaで採集された植物が、Echeveria carnicolor として研究されています。
研究材料の番号はJE-8374。採集地点は標高762mです。
この植物では、2n = 36という染色体数が確認されました。
つまり現在でも、野生の生育地まで記録された Echeveria carnicolor が研究対象になっています。
では「grau / grey」とは何なのか
一方、「カルニカラー グラウ/グレイ」は事情が異なります。
grauはドイツ語で「灰色」。greyは英語で「灰色」です。どちらも、ほぼ同じ意味を持つ言葉です。
しかし今回確認した分類資料では、Echeveria carnicolor var. Grau のような正式な変種は確認できません。
また、Echeveria carnicolor ‘Grau’、Echeveria carnicolor ‘Grey’ という名称についても、誰がいつ選抜・命名したのかを裏付ける園芸品種資料を確認できませんでした。
そのためtanitanien植物図鑑では、「grau / greyという名称を伴って流通する Echeveria carnicolor 系統」として記録します。
「灰色」という名前と原種の葉色
ここで興味深いのが、現在の「grau / grey」という名前と、1870年の原記載です。
grauもgreyも「灰色」を意味します。
一方、ベイカーが1870年に記載したカルニカラーの葉も、単純な緑色ではありませんでした。
淡い白粉を帯びた緑色にはっきりと赤みが加わる葉として記録されています。
さらに「carnicolor」という種小名そのものも、葉の肉色を表しています。
つまり、1870年の原記載でも葉色が特徴になっていた。そして現在流通する植物にも「grau / grey」という色を意識させる名前が付いている。ここには興味深い共通点があります。
ただし、「原種の灰色がかった葉を選抜したためgrau / greyと名付けられた」と証明できる資料は確認できません。
言葉の意味がつながって見えても、命名の由来まで推測して結びつけることは避けます。
野生の植物と古い栽培株には違いも見える
カルニカラーには、もうひとつ興味深い問題があります。
1870年の原記載は、ヨーロッパで栽培されていた植物をもとに書かれました。その植物は、淡い白粉を帯びた緑色に赤みがある葉として描写されています。
一方、Veracruzの野生個体を扱った資料では、葉は緑色からオリーブグリーン、あるいは紫色として記録されており、古い栽培植物の描写とは印象が異なります。
ICNも、現在野生で知られている植物と古くから栽培されてきたカルニカラーの姿の違いについて注意を促しています。
ただし、この違いだけで現在の栽培植物を別種や交雑種と判断することはできません。
栽培環境による変化なのか、長い栽培の中で選ばれた特徴なのか、それ以外の理由があるのか。現在確認できる資料だけでは、そこまで確定できません。
グラウ/グレイの由来はまだ追えない
現在、はっきり確認できるのは基礎となる Echeveria carnicolor の方です。
1870年に Cotyledon carnicolor として記載されたこと。1874年に Echeveria carnicolor となったこと。現在も独立した種として認められていること。VeracruzとPueblaに自然分布するとされていること。そして、現在もVeracruzの野生個体が研究されていることです。
一方、「grau / grey」については、誰が名付けたのか、いつ成立したのか、どこで選抜されたのか、特定の野生採集個体から続く系統なのか、正式な園芸品種として発表されたものなのか、こうした由来を裏付ける資料を確認できません。
基礎となる原種について分かっていることと、流通名について分からないことを分けて考える必要があります。
「カルニカラー グラウ/グレイ」をどう記録するか
tanitanien植物図鑑では、「カルニカラー グラウ/グレイ」という現在使われている名称を検索入口として残します。
基礎となる植物は、Echeveria carnicolor (Baker) É.Morren です。
ただし「grau / grey」は、現在確認できる資料から正式な変種や由来の明確な園芸品種とは判断しません。
そのため、「grau / greyという名称を伴って流通する Echeveria carnicolor 系統」として記録します。
1870年まで歴史をたどれる原種と、現在使われている流通名。確認できるところまではつなぎ、その間に残っている由来不明の部分は無理に埋めません。
異名・旧学名
- Cotyledon carnicolor Baker
出典・参考資料
- Baker, J.G. (1870). Cotyledon carnicolor. Refugium Botanicum 3: t. 199.
- Morren, É. (1874). Echeveria carnicolor. La Belgique Horticole 24: 158.
- Plants of the World Online (POWO), Royal Botanic Gardens, Kew. Echeveria carnicolor (Baker) É.Morren.
- International Crassulaceae Network. Echeveria carnicolor (Baker) É.Morren. Original description, lectotype, etymology and taxonomic notes.
- Jimeno-Sevilla, H.D. Echeveria carnicolor. In: Atlas de la flora de Veracruz.
- Palomino, G. et al. (2021). Chromosome Number, Ploidy Level, and Nuclear DNA Content in 23 Species of Echeveria (Crassulaceae). Genes 12(12): 1950.
- ※「grau / grey」については、この名称で流通する植物がある一方、その成立、命名者、選抜地、野生採集地などを裏付ける分類学的資料は今回確認できていません。