Echeveria canaliculata Hook.f.

基本情報
- 科
- Crassulaceae
- 属
- Echeveria
- 学名
- Echeveria canaliculata Hook.f.
- 命名者・著者引用
- Hook.f.
- 記載年
- 1857
分布
- 原産国
- Mexico
- 州・地域
- Chiapas
- 具体的産地
- Motozintla(歴史的記録)
自生地に関する記録
本文/補足・記録
「カナリクラータ モトシントラ チアパス」という名前を調べると、少し変わった問題に行き着きます。
Motozintla(モトシントラ)という場所は実在し、そこから植物が記録されたことも確認できます。
問題は、その次です。
Motozintlaで記録された植物を、本当に Echeveria canaliculata と呼んでよいのか。
後の資料では、その同定が十分に確認されていないことが指摘されています。
カナリクラータは1857年に発表された原種
Echeveria canaliculata は、ジョセフ・ダルトン・フッカー(Joseph Dalton Hooker)によって1857年に発表されました。
原記載は『Curtis’s Botanical Magazine』83巻、図版4986に掲載されています。
現在もキュー王立植物園のPlants of the World Online(POWO)では独立した種として認められています。
POWOが現在示している自然分布は、メキシコのHidalgo(イダルゴ)、Oaxaca(オアハカ)、Chiapas(チアパス)です。
「canaliculata」という種小名は、葉に深い溝があることに由来します。
1857年の原記載でも、葉の上面に深い溝があることが大きな特徴として記録されています。
葉は長さ約10~15cmで、白粉を帯びた色合いに紫色が入り、花は鮮やかなレンガ色。
花冠は約2.5cmと記載されています。
つまり Echeveria canaliculata という名前には、1857年に記録された植物の具体的な姿が基準として残されています。
モトシントラでは植物が記録されている
Motozintlaは、Mexico(メキシコ)のChiapas(チアパス)州に実在する地域です。
そして、ここからエケベリアが記録された履歴も残っています。
トーマス・ベイリー・マクドゥーガル(Thomas Baillie MacDougall)の記録には、
MACD B2
Motozintla, upstream, Chiapas
という植物が Echeveria canaliculata の名前と結びつけられて残されています。
つまり「Motozintla」という地域名そのものが、後から園芸流通の中だけで付けられたものではありません。
実際の採集・フィールド記録までたどることのできる地域名です。
問題は「本当にカナリクラータなのか」
Motozintlaという場所が確認できても、それだけで植物の同定まで確定するわけではありません。
ここが今回の植物で最も重要な点です。
マイロン・キムナック(Myron Kimnach)が2003年にまとめた Echeveria canaliculata の情報について、International Crassulaceae Network(ICN)は、MacDougallがChiapas州Motozintlaで採集した植物は Echeveria canaliculata として検証されていないと整理しています。
つまり、
「どこから来た植物なのか分からない」
のではありません。
Motozintlaという地域との接点は残っています。
分からないのは、
「その植物が本当に1857年に記載された Echeveria canaliculata と同じ種なのか」
という部分です。
地域名の確かさと、植物の同定の確かさは別の問題です。
カナリクラータそのものにも同定の難しさがある
この問題が複雑なのは、Motozintlaの植物だけではありません。
Echeveria canaliculata という種そのものについても、後世にその名前で扱われてきた植物の同定に問題が指摘されています。
1857年の原記載では、葉は白粉を帯びて紫色が入り、上面には深い溝があります。
花柄は約12.5mm以上。
花冠は約2.5cmで、鮮やかなレンガ色と記録されています。
ところが、後に Echeveria canaliculata として紹介された植物の中には、こうした特徴と一致しないものがありました。
たとえばOaxaca(オアハカ)州La Margarita周辺から知られた植物は、2012年に記載された Echeveria uxorium(エケベリア・ウクソリウム)である可能性が高いと指摘されています。
ICNも、過去に Echeveria canaliculata として紹介された複数の植物について、原記載の特徴と一致しないと指摘しています。
つまり「canaliculata」という名前が付いてきた植物の中に、別の種が混じっていた可能性があります。
2012年の研究でも分布には疑問符が付いた
2012年、Echeveria uxorium などを扱った研究では、Echeveria canaliculata も比較対象に含まれました。
その比較表で Echeveria canaliculata の分布は、
Motozintla, Chiapas?
と記載されています。
重要なのは最後の「?」です。
この論文がMotozintlaの植物そのものを再採集して Echeveria canaliculata ではないと証明したわけではありません。
しかし、少なくとも研究上、Motozintlaを Echeveria canaliculata の確定した産地として無条件には扱っていなかったことが分かります。
一方、現在のPOWOではChiapas州を Echeveria canaliculata の自然分布域に含めています。
資料によって、分布と同定の扱いに差が残っています。
ICNでは「spec. Motozintla」として分けている
International Crassulaceae Network(ICN)では、Motozintlaに結びつけられた植物を、
Echeveria spec. Motozintla
として別に掲載しています。
「spec.」は、ここでは種を確定していない植物を示す表記です。
ICNはこの植物を Echeveria canaliculata ではないと判断し、未記載種としています。
ただし、ここで注意が必要です。
「未記載種の可能性がある」ことと、「正式に新種として発表された」ことは同じではありません。
現在、この植物に新しい正式な学名が付けられたわけではありません。
そのため本図鑑でも、ICNの見解を根拠に新しい種名を付けたり、独立種であると確定したりすることはしません。
「カナリクラータ モトシントラ」という名前をどう残すか
現在確認できる記録を整理すると、少し不思議な状態にあります。
Motozintlaという採集地域は確認できる。
MacDougallによるMotozintlaの植物の記録も残っている。
その植物は歴史的に Echeveria canaliculata の名前と結びつけられてきた。
しかし、その同定は十分に検証されていない。
2012年の研究でもMotozintlaという分布には疑問符が付けられている。
ICNでは、Motozintlaの植物を Echeveria canaliculata とは分けて扱っている。
一方で、現在のPOWOは Echeveria canaliculata の自然分布域にChiapas州を含めています。
そのためtanitanien植物図鑑では、流通上使われている
「カナリクラータ モトシントラ チアパス」
という記事名は残します。
ただし、その位置づけは、
「Motozintla, Chiapasの地域名を伴い、歴史的に Echeveria canaliculata として扱われてきた系統」
とします。
「Motozintla産 Echeveria canaliculata」とは断定しません。
今回の植物で確かなのは産地名だけではなく、その名前の同定に疑問が残されているという歴史まで含めた記録です。
出典・参考資料
- Hooker, J.D. (1857). Echeveria canaliculata. Curtis’s Botanical Magazine 83: t. 4986.
- Plants of the World Online (POWO), Royal Botanic Gardens, Kew. Echeveria canaliculata Hook.f.
- Kimnach, M. (2003). Echeveria. In: Illustrated Handbook of Succulent Plants: Crassulaceae.
- International Crassulaceae Network. Echeveria canaliculata Hook.f.
- International Crassulaceae Network. Echeveria spec. Motozintla, Chiapas.
- Jimeno-Sevilla, H.D., Cházaro-Basáñez, M.J., Pérez-Calix, E. & Carrillo-Reyes, P. (2012). Additions to the Crassulaceae of the State of Veracruz, Mexico. Haseltonia 18.
- MacDougall field record. MACD B2, Motozintla, upstream, Chiapas.